2023.05.10

第3章 持続可能な宿泊施設「エコロッジ」(4)

3.2.5 新たなコレクションと従来エコロッジの比較

2015年以降にスタートした前述の3つのコレクションは、環境や地域社会などに対する持続可能性を追求しており、エコロッジの内容を踏襲しているものに見えますが、前述のようにいずれのコレクションも「エコロッジ」という言葉を用いていません。そのため、従来のエコロッジと必ずしも同じものであるとは断言できず、何かしらの違いがあるものと推測されます。そこで、従来のエコロッジとしてMehta(1999)の基準を用い、「従来のエコロッジ」と「エコロッジに類似すると思われる新たなコレクション」との違いを分析、検討することを試みました。

まず、従来のエコロッジとして前述した「Authentic Ecolodges」を用い、同書にて紹介されているロッジと新しい3つのコレクションメンバーとを比較し、従来のエコロッジと新しいコレクションの類似性の考察、及び新しいコレクション間での類似性の考察を行いました。なお、各コレクションの登録施設一覧については巻末に収録しています。現在は運営されていないUnique Lodgesのメンバーにはすでに閉業している施設もありますが、コレクション終了の2020年12月31日時点での情報としてそのまま掲載しています。

図 8 重複している施設一覧



コレクション間で登録施設を比較したところ、複数のコレクションに登録されている施設があることが分かりました。該当施設を一覧化したものが図8です。新たなコレクションのうちAuthentic Ecolodgesと重なる宿泊施設は3つでした。少なからず重複が見られたことから、従来のエコロッジと新しいコレクションが全く別のものではない可能性が示唆されます。また、Authentic Ecolodgesと新しいコレクションとで重なる施設はそのすべてがUnique Lodges登録施設でした。新たなコレクション同士でも重複している宿泊施設が見受けられ、こちらもすべてUnique Lodgesとの重複でした。このことから、Unique Lodgesは新しいコレクションの中でも最も従来のエコロッジに近く、また他2つの新たなコレクションの概念にも多く重なるものがあるものと思われます。

また、より多面的に施設を評価するため前述の宿泊施設環境認証制度Green keyの登録有無を調査しましたが、各コレクション登録施設の中にGreen keyの認証を受けている施設はありませんでした。考えられる理由としては、Green keyの認証施設はヨーロッパやメキシコ、中東などの一部アジアであり、登録地域に偏りがあるため、エコロッジとの重なりがないものと思われます。

続いて、各コレクションが掲げる施設登録の基準を用いて比較をすることで、従来のエコロッジと新たに登場したコレクションとの違いを考察しました。Mehtaによるエコロッジの10の指標を横軸に、新たなコレクションの加盟審査において用いられる基準を縦軸に置き、両者をクロスさせてその内容を比較しました(図9)。まず、Unique Lodges について見ると、Unique Lodgesの基準はMehtaの指標をすべて満たしていることが分かります。一方、Mehtaの指標にはない新たな要素として「優秀さ(ワールドクラスのゲストサービス)」があります。このことから、Unique Lodgesでは従来のエコロッジでは規定していなかった、付加価値の高いサービスの提供及びそれに必要な施設や単価を備えていることを加盟施設に求めていることが分かります。次に、Regenerative Travelについて見ると、Unique Lodgesと同様にMehta(1999)の指標をすべて満たしています。加えて、Mehtaの指標にはない要素として、「独立した所有・運営」と「真のホスピタリティの提供」の2つがあると分かります。Unique Lodgesと同じくサービス面でのレベルの高さが求められているほか、新たな基準として経営に関する視点が設けられていることが特徴といえます。最後にBeyond Greenについて考察します。Beyond Greenは、本論文で検討する新たなコレクションの中で最も新しいものですが、審査基準については公表されていないため、詳細は不明です。加盟条件はMehtaの基準を概ね包含するものの、「教育や研究を通じた地域への持続可能な発展への貢献」に関する項目がありません。現地での雇用や調達率の向上に関する条件はありますが、理念の普及や教育支援という長期的な地域との関係性についての項目がない点で、やや商業主義に近いものであると考えられます。また、3つの新しいコレクション間でも違いはあるものの、各コレクションの基準を照らし合わせると、「自然の保護」「環境に優しい慣行」「地域社会への貢献」「文化の保護」「経済の持続性」「高付加価値なサービス」に大別することができ、これが3つのコレクションに共通する特徴であると推察されます。

図 9 各コレクション基準比較



以上のように、基準の比較を行った結果、新たなコレクションはMehta(1999)の原則をほぼ満たしていることが明らかになりました。一方、Mehtaの基準にはない「ホスピタリティ」「高付加価値なサービス」「ガバナンス」などの内容も条件になっていることが分かりました。このことから、近年登場したコレクションが収集している宿泊施設は、エコロッジの考え方に加えてサービスの質や経営面の持続可能性をより重視したものであり、エコロッジの概念はさらに次の段階へと発展を遂げていると考えられます。本論文では、エコロッジの考え方と共通しつつも、より多面的に持続可能性を捉えているこの宿泊施設の特徴を「新エコロッジ」と表現し、エコロッジから発展を遂げた新たな宿泊施設の考え方として扱います。