2023.05.10

第6章 おわりに

6.1 結論

ここまで日本宿泊業の持続可能性に寄与すると考えられる「エコロッジ」とは何か、その概念や歴史を整理し、エコロッジを日本に応用する際に考えられる課題について考察してきました。国内宿泊施設の調査として、雪国観光圏のTIMELESS YUKIGUNIを構成する12施設を対象に現状分析を行った結果、全体として取り組みのレベルにはばらつきがあり、エコロッジとしての要素が十分であるとは言えないことが分かりました。しかし、高い達成度を実現している事例があるという事実から、日本でエコロッジを実現することは不可能ではないといえます。TIMELESS YUKIGUNIについては、12施設間で「100年後も雪国であるために」という長期的な目標が共通認識としてあること、また、施設を牽引するリーダー的な存在がいることから、エコロッジとして魅力を創出できる可能性は十分にあると考えられます。しかし、TIMELESS YUKIGUNIの唯一の課題は、ロジックモデルが作成・共有されていないことです。長期目標に至るまでの短期・中期の目標が定められていないことから、施設によってはエコロッジを応用することについてセンスメイキングできていない場合があると思われます。ですが、エコロッジの取り組みに深い理解を示すリーダー的な事業者を筆頭にしてロジックモデルを作成し、100年後も雪国であるための道筋がより具体的に共有されることで、TIMELESS YUKIGUNI全体としてエコロッジのような社会的取組の達成レベルを底上げすることができるのではないでしょうか。

こうした事例を踏まえ、本論文では、日本でエコロッジの概念を実装する際は社会的なインパクトを目標として、ロジックモデルを作成したうえで、地域でセンスメイキングしていくことが必要であるという結論に至りました。また、資金面での課題についてはインパクト投資を用いることで解決に寄与することができることを示しました。以上のように、現在の日本にはエコロッジがないものの、その意味や目的が理解され、社会的インパクトを生み出す施設として展開していくことで、日本でもエコロッジの概念は実現されていくのではないでしょうか。




6.2 今後の展望

日本でのエコロッジの実装にはいくつか課題があると分かりましたが、第5章で調査対象とした雪国観光圏をはじめ、進み始めている事例もあります。雪国観光圏に関しては、もともとエコロッジと近いものを目指していたといえますが、エコロッジの概念を知り、雪国版エコロッジを普及させようという動きが始まりました。その第一歩として行ったのが今回実施した実態把握のアンケート調査であり、この結果をもとに、「ECOLODGES JAPAN in YUKIGUNI」[1]というホームページが作成されました。地域の状況を人々に示すとともに、新型コロナウイルス終息後に欧州のインバウンド客が戻ってきた際に旅行先として選択されることを見据えた準備として行ったものです。

さらに、伊豆諸島最大の島である伊豆大島でも実践が始まっています。民間企業が主体となって社会的インパクト投資を大島町と一緒に行い、観光再生していく拠点としてジオパークに上質なロッジを建設するという計画が東京都の支援を得て進んでいるのです。

このように日本の各地でエコロッジを実践する取り組みが広がっていますが、現時点でエコロッジのすべてを把握できているわけではなく、依然として研究の余地は多分にある状況です。今回の研究についても海外事例の一部を取り上げた予備的考察にすぎず、世界にはより多くの形でエコロッジは存在していると推察されます。また、エコロッジは非常に多義的なものであり、環境へ配慮した運営と一口に言っても、建築やデザイン、排水システムやごみの処理方法など様々な分野が関わっています。加えて、経営のあり方や地域との関わり方など、実証的な研究には至ってはいないほか、経営者の視点だけでなく、消費者の側面についても研究を深める必要があるといえます。今後の展望としては、こうしたエコロッジを構成する様々な分野をさらに細分化して研究を進めていくとともに、実装が始まっている事例に携わることで、ロジックモデル作成や課題の検討など、日本での応用を実現するための検証をさらに行っていきたいと考えています。

 

謝辞

本研究は、高崎経済大学2021年度研究奨励費の助成を受けたものであり、深く感謝を申し上げます。

[1] ECOLODGES JAPAN in YUKIGUNI ホームページ: ecolodge-jp.yukigunijapan.com/ (2023年1月15日閲覧)