5.1 調査対象について
前述のように、日本ではいまだ海外においてエコロッジとして認識されている例も無ければ、概念としても普及途上にあります。しかし、日本の宿泊施設について考えると、エコロッジ同様小規模であり、地域に根差した宿泊施設は多数存在します。では、なぜ日本にはエコロッジがないのでしょうか。そこで、日本の小規模宿泊施設に対してエコロッジの概念を当てはめ現状を分析することで、エコロッジの実現可能性及びエコロッジを応用するにあたっての課題を考察します。まず、実際の宿泊施設の実態調査として、日本の小規模宿泊業である旅館を対象にインタビュー及びアンケート調査を実施しました。事例として取り上げるのは、雪国観光圏というDMOが組織化したコンソーシアム「TIMELESS YUKIGUNI」に登録されている施設です。雪国観光圏とは、「観光圏の整備による観光客の来訪及び滞在の促進に関する法律」に基づき、新潟県魚沼市、南魚沼市、湯沢町、十日町市、津南町、群馬県みなかみ町、長野県栄村の7市町村を圏域として一体的な観光圏で新たな展開をすることにより地域活性化を目指す広域観光圏であり、「100年後も雪国であるために」という理念を掲げて活動しています。2020年、雪国文化を体感できるより上質な滞在を志向し、トップクラスの12宿泊施設がコンソーシアム「TIMELESS YUKIGUNI」を設立しました。「8000年前から続く雪国の自然やそれに育まれた生活文化、縄文から続く雪国という自然環境を受け入れ、1万年以上にわたり森と共生してきた歴史や文化を基層にしながら、個性的な宿が、それぞれのスタイルで雪国文化を表現。それを今日的な価値へと転換し、旅行者へ体験として提供。未来も含めた雪国の経済、社会、環境への影響に十分に配慮した宿」[1]であり、各旅館が「欧米の富裕層向けに雪国文化に触れる、新たなラグジュアリーの提案として、地域の自然や文化、伝統、人々の資源を活かしたブランド体験を提供し、これらを持続、発展させるための取り組み」を実施しています[2]。このように、TIMELESS YUKIGUNIはエコロッジの概念に近い考えを持っていることから、今回調査対象として選定しました。調査を行った12施設の概要を図15に示します。
調査では、12の施設が立地する「雪国」という地域の特性に沿ったエコロッジとは何か考えるため、まずインタビューを通じてエコロッジ概念に通ずる取り組みにはどのようなものがあるか、各施設の事例をヒアリングしました。次にインタビュー調査の結果挙がった各取り組みについて12軒全体としての達成度はどれほどなのか、各施設へのアンケート調査を通じて明らかにし、TIMELESS YUKIGUNI全体としての取り組み状況を数値として可視化しました。
5.2 インタビュー調査
アンケート調査の前段階として、まずTIMELESS YUKIGUNIに加盟している12施設へのインタビューを行いました。実施日は2021年9月7日及び2021年9月16日、17日であり、1軒当たり約1時間の聞き取りを実施しました。12施設の経営者へインタビューした結果、共通する項目として「温泉の保全」や「水資源の保全」といった雪国という地域性ならではの取り組みに関する意見が多数挙がりました。特に水については、豊かな自然資源から育まれるおいしい水が蛇口から飲めると伝えるメッセージカードを作成するなど、地域の水に誇りを持ってその魅力を伝えている施設が多数ありました。また、インタビューした施設の中には環境認証制度Green keyを取得している施設もあり、自然環境への配慮を目的として、食品ロスの削減や消費電力の削減、節水などの取り組みを実行しています。その他にも、多くの旅館で温泉の活用に意欲的な考えが示され、温泉を入浴するという用途以外に、融雪や暖房、高い温度を活かした温泉バイナリー発電に使用するなど、幅広く温泉のポテンシャルを活かしています。それと同時に、温泉の持続可能性についても重要視している意見が挙がっていました。湯量のモニタリングを通して、温泉の過剰利用を防ぎ、地域の温泉が枯渇することを防いでいるとのことでした。アクティビティに力を入れている施設もあり、山菜採りや薬草の観察、ガイドと共に山を散歩するツアーなど、地域の自然を体験できるアクティビティが実施されています。こうした活動には、ゲストに地域の自然の魅力を感じてもらうことはもちろん、アクティビティを通して人々が里山に入ることで、人間と動物との境界を保ち、里地里山の保全につなげる意味もあるといいます。また、自然体験のほかにも、地元の人が料理を教えるクッキングクラスや歴史文化を感じることのできるツアーなど、地域と連携したアクティビティを実施している旅館もありました。食事に関しては、すべての旅館において、地元の食材を用いているという声があり、雪国ならではの囲炉裏を用いた食事を提供している旅館や、地域の農家と連携し、発酵保存など雪国の伝統的な料理法にも取り組みながら化学調味料を使用しない料理を提供している旅館などがありました。
以上のように、インタビュー調査を通して、分野や取り組み度合いに違いはあるものの、各旅館でエコロッジとしての要素を感じられる取り組みが実施されていることが分かりました。
[1] TIMELESS YUKIGUNI :snow-country.jp/?a=model_plan&n=133(2023年1月15日閲覧)
[2] ryugon:ryugon.co.jp/news_report/headLine/20210412/(2023年1月15日閲覧)