4.3 エコロッジの概念整理
ここまで、日本の宿泊業の持続可能性に有益と考えるエコロッジの概念について、先行研究のレビューや近年の状況の分析、視察調査など様々な形で考察してきました。それらの検証の結果、近年の時代背景に合わせて従来のエコロッジから発展を遂げた考え方「新エコロッジ」が誕生していることが分かりました。そこで、これまでの検討を踏まえ、エコロッジ及び新エコロッジとはどのようなものか、従来のリゾートと比較しながら改めてその特徴を示したいと思います。3章で示した伝統的なロッジとエコロッジの比較表及びコレクションの基準比較や視察調査の結果をもとに、従来のリゾート・新エコロッジ・(従来の)エコロッジの3つのフェーズでその概念を比較し、エコロッジの要素を整理しました(図14)。まず、エコロッジ全体として、地域と一体となって開発されているという特徴があります。特に、地域のコミュニティへ参画したり、地域の自然環境や文化を保護したりするといった地域への貢献という側面が強く押し出されています。これらは社会的インパクトという言葉で表すことができる。社会的インパクトとは、「活動や投資によって生み出される社会的・環境的変化」(Epstein et al.,2014)を指します。図14中では、「地域環境と一体化した開発」、「地域コミュニティへの参加やコミュニティへの還元がある」、「建築やエネルギー消費、脱プラスチックなど様々な形で実践」「地域の伝統文化を体験プログラムに入れるなどして実践」などが該当します。また、アクティビティとしてガイドが地域の自然環境や文化について解説するというゲストへの教育的要素を持っているという点も特徴です。
従来のエコロッジと新エコロッジの違いとしては、顧客層、経営戦略、投資の3点が挙げられます。顧客層について、新エコロッジは従来のリゾートにより近い、ラグジュアリー層をターゲットとしているが、豪華なものだけを好むのではなく、より本物性の高いものや地域ならではのものを志向するModern Luxury層が主要な顧客層であるという点でリゾートとは異なっています。また、経営戦略については、従来のエコロッジに比べて高価格で高品質なサービスの提供を行っていることが特徴です。投資においても、社会的な貢献を見据えた投資であるサステナブル投資を用いることが多いという点で従来のエコロッジとは異なっています。新エコロッジはラグジュアリー層を主な顧客層としているほか、より高付加価値なサービスを提供しているため、施設の整備等により資金がかかります。加えて、地域への貢献や持続可能性の追求など、そのコンセプトに共感する人の存在もあります。そのためインパクト投資の発想を用いた第三者投資を利用していると考えられます。本稿の事例調査の対象であるベトナムのTopas Ecolodgeは実際にODAを用いているほか、Unique LodgesとBeyond Greenに登録されているカナダのFogo Island Innでは、財団が資金を提供しています。このように、新エコロッジは従来のエコロッジ同様に地域のための施設であるという特徴に加え、投資など経済面でも社会性を追求しているといえます。持続可能性やサステナブル投資が盛んな現代では、この新エコロッジがこれからさらに普及していくものと思われます。日本の宿泊業にエコロッジ概念を応用する際も、この新エコロッジ概念を実現することが、より一層持続可能性の向上に寄与できるのではないかと考えます。なお、新エコロッジの登場によって従来のエコロッジが姿を消したというわけではなく、あくまで新たな種類として新エコロッジが登場したのであり、現在も営業しているエコロッジは存在することを付け加えておきたいと思います。