2023.05.10

第4章 事例調査(2)

4.1 ベトナムにおけるインタビュー調査(続き)

天空の別天地Topas Ecolodge



両ロッジともに、滞在の主目的の1つとなるのがアクティビティです。トレッキングやハイキング、スパなどいくつかの体験が用意されていますが、ゲストからの要望で最も多いのは「自然の景色を見たい」「地元の少数民族の体験をしてみたい」といったものであるといいます。今回の視察では、地元の村を訪ねて話を聞くハイキングツアーと、別の少数民族が住む高地まで渓谷を半日かけてトレッキングするツアーに参加しました。どちらのツアーも地元の民族である男性がガイドとして付き添い、訪問先の民族の家では住民が話す言葉を英語で通訳したり、歩きながら遭遇する様々な自然環境について解説をしたりといった役割を担っていました。実際に宿泊をしてみて、滞在を通してのガイドの存在が非常に大きく感じました。また、アクティビティではただ体を動かし自然を感じるのではなく地域の文化や環境について解説してもらう内容であったため、教育や解説の比重も大きいと感じました。


Topasグループではその立地もあって環境に配慮した運営がなされています。まず、電気については、ロッジの近くにある水力発電所から調達しています。水資源については、民間の井戸から供給され、飲料水や製氷用に濾過されて使用されています。また、水の使用量を最小限にすることを心がけており、シャワーやシンクの水など、すべての水を再利用する排水システムをドイツの技術を用いて実現しています。ごみに関しては、レストランや厨房から出るごみはすべて分別し、食べ残しは地元の農家に渡して家畜の餌にし、その後その農家から食材を購入しています。空き瓶や空き缶は地元の人に譲渡して再利用してもらったり、リサイクル用に売ったりなどしています。通常の接客において客室から出るアメニティなどのごみの対策として、シャンプーなどはディスペンサーで提供したり、アメニティはスリッパ等備え付けのないものは必要があれば追加でレセプションにリクエストしてもらうなどの方法を用いています。こうして様々な取り組みにより循環サイクルが構築され、環境負荷を最小限に抑えています。だが、ゲストには必ず環境に配慮した行動をするように押し付けているのではなく、あくまでもアイデアをシェアしているのであり、学校の先生のように何かを教えるのではなく、ゲストが帰宅したときに自宅でも実践できるようにとの思いで行っているといいます。

両ロッジともに新型コロナウイルス流行前は顧客の90%が欧州からの旅行者でした。しかし、ウイルス流行後はそうした海外の旅行者が減少したことで、ベトナム国内のゲストが増え、ウイルス流行前に2~5%であったベトナム人客の割合は50~60%にまで増加しました。また、ロッジの単価は1泊2食付きで3万円程度とブティックホテルクラスのグレードであり、施設が立地するサパ地域としては高額の部類に含まれます。こうしたことを踏まえ、ロッジマネージャーは「エコロッジは欧州では持続可能な観光の発達によって需要のある存在になっていると思う」と述べ、「私たちは万人向けのホテルではなく、私たちの部屋を気に入ってもらえない国籍の人たちがたくさんいることも知っている。また、私たちは小規模であるため、持続可能性を実行するにはより費用がかかるため、そうした経験をしたい人、持続可能性にお金を払いたい人に焦点を合わせている。客室数の多い大規模なホテルのように、すべての人のためのホテルである必要はなく、私たちは小規模であり、一部の人のためのものでいいと考える。」と、ロッジのあり方について考えを示しました。

以上のようにTopas Ecolodge及びTopas Riverside Lodgeでは地域社会との連携や環境への配慮などエコロッジとしての要素が多く体現された施設であることが分かります。調査結果として、両ロッジにおける新エコロッジとしてのポイントを列挙します。

①返還義務のない公的な資金をベースとして建設

②開発・運営会社であるTopas グループは地元と共同で10年間構想を練り、共同運営会社を設立して運営委託。総支配人のみ本社から派遣されている。

③開発の主目的は英語教育の充実や雇用の創出など地域社会への貢献であり、周囲の自然環境はアクティビティとしてゲストに提供している。

④アクティビティは10種程度用意しており、メインは地元民族の村を訪問するハイキング(約3時間)や約9kmの山道を歩くBBQ付きのトレッキング(約5時間)、少数民族の女性が代々受け継がれてきたレシピを使用して作る薬草風呂がある。

⑤アクティビティにおいては地元民族のガイドが付き添い、地域の文化や自然環境について英語で詳細に解説する。

⑥ロッジの客室や食事、その他全体に係る運営では環境に配慮した取り組みを実施している。

⑦客層は欧州が90%であり、持続可能性や地域ならではの体験に価値を感じる人に焦点を当てている。