2023.05.10

第4章 事例調査(1)

4.1 ベトナムにおけるインタビュー調査

渓流沿いのTopas Riverside Lodge



3章における検証の結果、従来のエコロッジからさらに発展した考え方の誕生が明らかになりました。そこで、実際に近年登場した新たなコレクションに登録されている宿泊施設を調査し、本論文で指す「新エコロッジ」の概念を分析しました。今回は、新エコロッジの事例調査として、ベトナムにあるTopas Ecolodge[1]及びその姉妹施設であるTopas Riverside Lodge[2]の視察及びインタビュー調査を行いました。調査対象としてTopas Ecolodge及びTopas Riverside Lodge を選定した理由は、Topas EcolodgeがUnique Lodgesのメンバーであったためです。中でもアジアの地域で施設を検討し、棚田をはじめとした自然環境が日本と似ていることから同施設への視察を決めました。調査は2022年8月9日~8月11日にベトナム現地で行い、ロッジマネージャーによる施設の説明を受けて宿泊体験をしたほか、ロッジマネージャーへの聞き取りとして約1時間のインタビューを実施しました。ロッジマネージャーはデンマーク出身のTopasグループ社員であり、2019年以来、彼はTopas EcolodgeとTopas Riverside Lodgeの両方でシェフも務めています。ロッジのホームページ等では分からない施設開発の経緯や地域コミュニティとの協働などの細かな情報を伺いました。以下、インタビューで得られた知見を混ぜながら、Topas Ecolodge及びTopas Riverside Lodgeの事例について見ていきます。


Topas Ecolodgeは2005年開業の33室からなる施設であり、Topas Riverside Lodgeはその姉妹館で14室の施設です。どちらもベトナム北部サパ地域の棚田が広がる山岳地帯に位置し、地域には様々な少数民族が暮らしています。

施設の開発と運営を担っているのはデンマークのTopasグループです。1973年創業の同社は、アドベンチャートラベルの専門企業であり、ベトナム以外にもグリーンランドに複数の宿泊施設を所有しています。ベトナムでのロッジ建設のきっかけは1992年、Topasグループがサパ地区へのツアーを企画し始めたことに始まります。ツアー参加者からの反響は大きく、現地のパートナーと強い絆を構築してきたTopasグループは、1995年に現地パートナーと共同会社を設立し、1999年にはTopas Ecolodge建設の構想を練り始めました。建設にあたって第一に考えられたことは少数民族の村の近くに、ゲストの快適な滞在を提供しつつ地元の生活に密着した拠点を作ることでした。快適な滞在といっても、同施設の立地ではフルサービスの5つ星ホテルのような滞在を提供することはできません。Topasグループが目指したのは自然環境への影響を最小限に抑えたラグジュアリーな宿泊施設でした。デンマークの公的開発援助機関であるデンマーク国際開発援助活動は途上国支援の一環として、このプロジェクトを支援し、民間企業主導の返済義務のない投資として建設されました。同ロッジが遠隔地における持続可能な観光のショーケースとなり、地元の人々に教育や雇用機会を提供することが目的でした。こうして2003年6月にTopas Ecolodgeの建設プロジェクトが開始されました。

一方、姉妹館であるRiverside Lodgeは、もともとは地元の村に住む少数民族でコミュニティの有力者である夫婦が2013年に自分たちの家として建設していたものでした。しかし、Topas Group はその場所を知り、地域の手付かずの美しさ、家族の温かさに感銘を受け、2014年に夫婦の建設プロジェクトに投資をして、家を完成させ、海外からの旅行者のための小さなホームステイとして物件を借りることを依頼しました。それはマスツーリズムの影響によってまだ損なわれていないベトナムの本当の姿を体験できるというゲストにとっての魅力だけでなく、地域で最も貧困に苦しむ地域の1つで家族に追加の収入を提供できるという利点もありました。その後、2019年にTopasグループは正式に土地とロッジを購入し、それまで各部屋にトイレやエアコンがなかったシンプルなホームステイ施設からより快適な魅力ある施設へと改装し、2020年6月に初めてゲストを迎えました。ロッジの外観は大きく変わったものの、以前のロッジの想いや、スタッフはそのまま受け継がれ、もともと建物を所有していた夫婦も現在ロッジを手伝っています。

Topas Ecolodgeの建設目的が地元への教育と雇用の提供であったように、現在両施設で雇用されている従業員のうち96%は地元の民族出身者です。彼らはロッジにとって大切な存在であり、Topasグループは彼らに多くの時間をかけ投資しています。もともと英語が話せないことに加え、衛生観念がないといったこともあり、教育することは多いといいます。英語については毎日レベルに応じたクラスが実施されており、スタッフはベトナム外からくるゲストとの会話や接客に活かしています。もしロッジで働かなくなったとしても、英語が話せることでより良い仕事機会が得られるとしてTopasグループは英語教育に力を入れているのです。スタッフは10年15年と長く働いている人が多く、新型コロナウイルスが流行した際も誰も解雇していないといいます。

こうしたTopasグループのすべての取り組みに感じられるのが地元への敬意です。インタビューにおいてTopasグループと地域コミュニティとの関係を聞いたところ、「地元の人々から土地を借り、文化を借りているという意識があり、それらを上手く利用し、協力し合わなければならないと考えている」と述べていました。「そうしてTopasグループが成功すればするほど、ビジネスでより多くのお金を地元に返すことができるということを理解したうえで、Topasグループと地元の人々はお互いに必要とし合っている」と語ります。こうしたフラットな関係がゲストへの価値ある体験の提供へとつながっています。

 

[1] Topas Ecolodgeホームページ:topasecolodge.com/(2023年1月15日閲覧)

[2] Topas Riverside Lodgeホームページ:topasriversidelodge.com/(2023年1月15日閲覧)