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2020/05/21 15:57

小規模企業の労働生産性が低い理由

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日本では企業の98%を占める中小企業の労働生産性が低く、日本経済全体の足を引っ張っているといわれます。宿泊業でも94%が資本金5,000万円未満の中小企業です。さらに全体の60%と過半数を占めるのが資本金1,000万円未満の小規模事業者で、1万3千社もあります。そして、その1万3千社全体のバランスシート(法人企業統計調査)をみると、1,755億円の債務超過です。つまり、全財産を売り払っても返済ができない状況です。
5月20日の日本経済新聞では、中小企業に500億円の資本注入をすると報道されていましたが、宿泊業の小規模事業者の超過債務1,755億円と比較しても、よほどのレバレッジを効かせない限り、それは小さな数字にしか聞こえません。それだけ、日本の小規模事業者(宿泊業でいえば旅館)は過剰債務を抱えているのです。

さて、労働生産性が低いといわれる理由に「利益ゼロ+給与が低い=雇用を生まずによい経営ができていない」と指摘されることがあり、たしかに利益ゼロや低い給与はその通りではありますが、それには事情があります。
日本は、地方の小さな資本に土地を担保として地域金融がお金を貸出し、地域まんべんなく経済成長を遂げてきました。その頃は人口が増加し、自動的に経済が成長していた時代でもあったという背景もあります。そうした日本経済も1995年前後から生産年齢人口が減り始め、世界に先駆けて人口が減少してきました。そもそもは、そうした時代になったことを認め、様々な仕組みを変えていかなくてはいけないのですが、それが十分ではないのです。過剰債務は人口増加を前提として借り入れた頃の名残です。
中小企業白書によると、経営者で最も多い年齢は70代と高齢です。20年前は50代でしたので、簡単にいえば、経営者が20年間変わっていないともいえます。デジタル化が必須の時代、経営者も「新しい時代になったのだから、そろそろ引退しては」といわれることも少なくないと思いますし、そうしたほうがよいと思うのですが、できない理由があります。

それが「債務の個人保証」です。

万一のことがあれば個人の資産で債務を保証しなくてはいけないという個人保証のプレッシャーが、後継者に借金を引き継がせたくないと、経営の座に押しとどめている理由といえなくないでしょうか。後継者がいない理由も、結局ここに帰結しますし、日本で起業が増えない最大の理由です。
株主の出資を得て企業をまわす大企業であれば、社長は「雇われ」ですから、そんなものは要りません。もちろん株主圧力があり、それなりに苦労は多いと思いますが、個人の財産を取られる恐怖はありません。
個人保証があるために、経営者は役員報酬を金融機関に預金をしたり、いざという時に換金しやすい高級車を買ったり、資産を増やして保証に備えなくてはいけません。もちろん返済をした上で、少しでも給与を上げたいし、利益も出して国に貢献したいと思っていると思います。しかし、不動産価値も目減りしている昨今、少しでも個人の預金が資産として必要なのです。しかし、個人の預金は企業のバランスシートでは見えません。ただその実情は、金融機関はわかっているはずで見守っていると思います。

「利益ゼロ+低い給与×少ない雇用者」では企業の労働生産性はどうしても低くなります。デジタル化を進めたいのですが、経営者は高齢のまま、内部留保も少なく、後継者もいないでは、なかなか先に進みません。なぜ日本では(韓国もそうですが)ちょうど経営者くらいの年齢の高齢男性の自殺者が多いのか。生命保険には免責事項はありますが、一定年数が経てばはずれる事実はタブー視されています。受取人を債権者に指定された保険に入らされる現実を知れば知るほど、日本で起業してがんばろうという若者が出てこないことも合点がいくのではないでしょうか。優秀な若者は皆、海外に出ていきます。



中小企業経営者が一生懸命貯めている預金も、金融機関を通じて投資家経由大企業に還流し、その内部留保になっていると思うと、中小企業が踏み台となり、大企業がまわっている構図が見えてきます。中小企業に還流させたくとも、債務超過や利益ゼロでは借り手がなく、取り残されていきます。
そして若者は皆地方を後に、生産性の高い都市の大企業を目指し、働き、女性の未婚化・男性の貧困化につながり、少子化が加速しているのですが、人口が一層減少していけば、いずれ都市からも働き手が消え、将来の労働生産性は逆に押し下げらてしまわないでしょうか。移民という選択もあると思います。しかし、その先進国がブレグジットを選択したり、移民排斥を起こしている姿を見るとそれだけが正解とも思えません。今こそ日本なりの資本構造のパラダイムシフトが必要です。それこそ「戦後レジームからの脱却」の実践ではないでしょうか。

「合成の誤謬」という言葉をいつも学生には伝えています。ミクロでは正しくても、マクロでは誤った方向に導いてしまうこと。まさに、現代は、合成の誤謬だらけです。しかしその結論は、貧者にとっては合成の誤謬でも、強者にとっては実は思い通りなのかもしれませんが・・・。

このへんは、ちょうど明日(5月22日)から再公開されることになった映画「21世紀の資本」が教えてくれるのではないかと思います。

中小企業の労働生産性を高めるためには、個人保証の撤廃が必要です。
そうはいっても、簡単にはできないと思いますので、その前段階として、過剰債務を消していくための政策が待たれます。資本注入も債務の劣後化も全企業にまんべんなくはできないと思いますので、地域の核となる企業を決め(なければDMCを作り)新たな借り手とすべく、新たな資本を注入し、その資本の下で地域の小規模事業者の世代交代と過剰債務の適正化、地域需要の創造を進めていくことがベターチョイスになり得るのではないでしょうか。

若い人たちが、心おきなく企業し、若者や子供のあふれる日本を再生するために、新型コロナはそのきっかけとなる機会をくれたと思い、時代が転換していくことを心から願っていたいと思います。

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