オーバーツーリズム解消はコミュニティの力が不可欠
観光地の許容量を超えて旅行者が訪れるオーバーツーリズムが世界各地で問題になっています。その多くに共通するのは、その地のポテンシャルに比して地価が安い国に売却益目的の不動産投資が続く結果、宿泊キャパシティの過剰な増加や地価の値上がりを誘発している点です。日本でも東京や京都、ニセコ等でマンション価格が急騰していますが、マナー問題以上に、住民が家を売って出ていき、都市の空洞化を招いてしまうおそれが危惧されます。
それに対抗し、問題解決に結びつけるためには、コミュニティの力が不可欠です。地域外ではなく、地域の企業が地域に投資し、その収益を地域に還元し、地域内での経済循環を高めながら、適正な旅行者数を維持していく「現代版コミュニティベースドツーリズム(CBT)」を具現化することです。
CBTは、主として少数民族等の文化が残る地域に地域外資本が投資し、新たな雇用を生み、地域主導で環境を守り続けるツーリズムを指してきました。あくまでインカムゲインが目的で、売却益は想定していません。
しかし、人口が減少していく現代においては、逆に雇用者を生む必要があります。残念ながら観光業だけで移住者を引き寄せるのが難しいため、都市型の生産性の高い異業種企業と協業し、そうした企業が町に投資することにより、新しい観光コンテンツを作り、その会社に憧れる移住者を増やし、そうした方々に観光事業を運営してもらうような方式が考えられます。
石見銀山の玄関口に、文化的景観が残る世界遺産の町「大森町」があります。この町は、アパレルブランド群言堂と世界的義肢メーカー中村ブレイスの2社が古民家等の文化的資産に投資し、町を維持しています。古民家は宿になったりカフェになったり。ここでは、客室数をあえて増やさないことで単価と風情が維持されています。そして両社で働くための移住者が増え、町に活気が養われています。
これからの観光は、異業種とのタッグにより移住者を含めた人の流れを増やし、経済循環と豊かな暮らしを生むための手段として再定義する必要があります。観光の主体は不動産業ではなく、コミュニティにあります。
(トラベルニュース 2019年9月25日号)