「てるみくらぶ」破産に思う
2017年3月、海外格安ツアー旅行会社「てるみくらぶ」が破産しました。報道によると、資金繰りに窮するようになり、3年前から粉飾決算を行っていたとのこと。同社を通じてツアーを購入していた皆様はたいへんな思いをされたと思いますが、「旅行会社」のビジネスモデルの終わりを予感させる事件でした。
旅行会社のビジネスは、お客様から先に代金全額を預かり、旅行後に航空会社やホテル等に支払うことにより得られる差益が利益の源泉でした。1971年のニクションショック以後進んだ円高と旅行の大衆化により日本人が海外旅行にどしどし出かけていた頃は、航空会社やホテル等より旅行会社の立場のほうが強く、徐々に下がるとはいえまだ金利も高く、こうした利益を得ることができました。しかし、生産人口がピークを迎え、バブルも弾けた1990年代半ばより、航空会社やホテルもインターネットを通じた直接販売を強化し、旅行会社に依存しない方向に舵を切っていきました。そして、代金決済のタイミングも「旅行日直後」となり、人気リゾート地のホテル等の客室等を格安で確保・販売したい場合などは「予約直後」の事前決済が求められるようになりました。つまり、旅行会社は差益を稼ぐどころか、リスクを負って仕入をする時代になったのです。さらに手数料も減少傾向で、航空券に至っては取消可能なノーリスク航空券の場合はゼロ。手数料が欲しければ、チャーター等の大量買い取り販売が求められ、中小旅行業の立場はどんどん苦しくなっていきました。加えて、訪日外国人旅行の増加で航空会社の搭乗率も上がり、格安仕入は徐々に困難になってきました。
さらに日本では、利用者と各旅行会社の間の取り決めである旅行業約款として、どの会社も自社独自ではなく国土交通省が定めた標準旅行業約款を横並びで使っていますが、この約款で定められた取消料率は出発直前に取り消しても最大50%。つまり、取消料の支払いで懐が痛いのは利用者だけではなく、現地へ既に支払ってしまっている旅行業者も同じなのです。海外では、格安ツアーを買う場合、予約後数日の間で全額支払うのが通常ですが、日本では標準旅行業約款のおかげで消費者のリスクが軽減されています。とはいえ、取消料率を一社だけ上げると競争に負けてしまうので約款を安易には変えられず、国が消費者の不利益にシフトするような標準約款の変更をするとも思えず、取消が増えると誰も喜べない現状になっているのです。
こうした現状を考えた時、「これまでの旅行会社のビジネスモデルは終わった」としみじみと思います。あくまで格安ツアーというのは、人口も増え、金利も高い「成長国のビジネスモデル」。そのため、資本力のある大手旅行会社は、アジアの成長国の旅行会社を買収をして、グローバルビジネスにシフトしています。
中小旅行業が今後生き残るためには、格安に仕入れる代わり、応分のリスク負担を利用者に求めるようなビジネスに修正するか、大手にはない独自の旅行コンテンツを開発し、特徴のある専門会社となっていくほかはないと思います。中小旅行業が組織化された全国旅行業協会では、国内旅行において「地旅」という現地の旅行会社ならではのニッチな旅行素材を商品化し、相互に売りあおうと取り組んでいますが、そうしたことなしでは生き残りは難しいのではと思います。
そうこうしているうちに、航空券もホテルもインターネットで直接予約のほうが便利になってきています。格安で買おうとすると、こちらはすでに予約時決済が当たり前。利用者も自己責任でそれを受け容れていますから、もう旅行会社は要らない時代になってきたのかもしれません。リスクを負って仕入れ、取消料も低く抑えて販売していた旅行会社が破産するのも自然な流れと言ったら言い過ぎでしょうか。