ikaken
ニッポンの観光をイノベートする「元気なヒト・宿・地域」の応援団

株式会社 井門観光研究所

▼ 他のページへ移動

メニューを飛ばす
UpArrow
  • TOP
  • 業務内容
  • 講演・メディア実績
  • 組織概要
  • お問い合わせ
2017/07/29 13:25

旅館生産性向上における未知の窓

Tweet
LINEで送る

7月27日付けの報道で、観光庁は「宿泊産業の競争力強化と地域観光の活性化に向けた課題を整理。その一つとして複数の旅館が企業や地域の壁を越えて連携し、コスト削減と顧客への付加価値サービスの充実を両立することを促す」という検討会の方向性が示されていました。そのために、「複数の旅館が共通入浴券の発行で連携するといった共同集客のほか、タオルや食材などを一括で大量に仕入れて納入価格を抑える活動」や「旅館同士で配膳・調理などの業務やマーケティングを担う各種人材の採用で協力したり、人材を融通し合ったり」「個別の旅館に対して、複数の作業を同時にこなす『マルチタスク』化のさらなる促進を求める」とありました。

理念や方向性はとてもよいことだ思うので、ぜひ具体的に進んでいくとよいですね。応援したいと思います。「一の宿倶楽部」や「日本味の宿」「宿倶楽部」など、すでに複数旅館で集まり、共同営業や勉強会を重ねている皆さん等の意見を聞いていただければと思いますし、食材に関しては越後の郷土料理を共同して守るため旅館共同で契約栽培等を実践する「雪国食文化研究所」等もありますので、ぜひ先進事例として紹介して欲しいと思います。

これに、あえて付け加えるとすれば、もしかして、こうした宿は既に一定の生産性を確保し、いわゆる「マルチタスク」もある程度できている宿も多いのではないかと思うこと。そうした宿の生産性がもし低いとすれば、キーコンセプトであるサービス強化のため従業員数を多めに確保しているのか、旅館でありがちな対品質単価が低すぎるがゆえに一人当り生産性が下がっているということだったりするかもしれません。そうした地方旅館の従業員も「労働環境の改善」は求めるかもしれませんが、都会でない限りそんなに給与を最優先にとは言わないような気がするのです。都市に住んでいると生活費がかかるので、給与はより多く欲しいですけどね。こうした宿には、地産地消のリーダーとなったり、地域や旅館業に新たな需要を呼び起こすための共同での先進的取組みを期待しています。

むしろ、労働生産性改善の面でまず何とかすべき対象は、「客室稼働率も平均60%程度を確保している法人型旅館(従業員10名以上)」ではなく、おそらく旅館業の過半数を占める、「家族経営で客室稼働率10~20%の個人事業主型旅館(従業員9名以下)」です。そのため、前者と後者を切り離し、議論・検討を進めることも必要かと思います。後者に関しては、60~80代の経営者が年金や家族の収入を得ながら、必要な時だけ宿を開けるという姿の経営をしている限り、生産性はどう考えても低く出てしまいます。それを旅館業全体で平均するとどうしても平均値は(37%と)低くなってしまいます。こうした宿は、業界団体へも目立った参加はせず、情報過疎に陥っているので、そもそも政策の俎上にも乗りません。

三重県のある商工会議所では、こうした宿を一軒一軒訪ね歩き、財務諸表も確認して、どうすればよいか伴走型支援を始めています。こういう側面で「共同仕入れ」等が生きてきます。島根県の海士町でも、民宿の消耗品類の共同仕入れを行い、観光協会が営業や送迎も代行したり、一括共同営業を行って経営改善を果たしました。小規模民宿・旅館の生産性向上はある程度、ソフト面での改善で果たせると思うのです。

しかし一方で、中型以上の旅館の生産性改善は、単価を上げ、従業員の業務効率化を行うための「設備投資」が欠かせません。それができないとすれば先代からの負債が足かせになっているからです。そうなるとまた別問題です。そうした宿での共同仕入れはかつて産業再生機構や事業再生の局面でいろいろ取組みました。しかし、地域の業者を切り、バッタ屋で仕入れたり都会の乾物屋に全部任せることに関する抵抗感は半端なくありました。地域で生きる旅館の矜持とは何かを追求していくと、共同仕入れはどこもうまくいかなかったのです。地域で共同仕入れしてもトイレットペーパーの質一つでも違います。チェーンで共同仕入れしていくと地域の業者を切っていくことになります(チェーンホテルならできます)。結局、中型旅館以上で高い生産性を誇っているのは、まずはハード面で効率的な仕組みや設備を導入するとともに、一定単価を確保し、独自ルートで仕入れた食材で競争力のある料理を提供できている宿であるように思えます。

そう考えると、こうしたソフト面での改善案を実践するために、「従業員9名以下」の小規模旅館・民宿を対象として考慮していただければと思います。こうした宿では共同仕入れ等の効果は出やすいと思いますし、集客はその多くをOTAに依存していて、旅行会社の「ブロック」とかもあまり関係ありませんし、対策も複雑ではありません。こうした宿が、例えば、今欲しいのは「ブラック客」リストや「キャンセル料」収受の仕組み。とにかく、多いです。キャンセル。旅館がブラック化する原因は「ブラック客」だという本音もどこかで言いたいのはやまやまで、その手数が減るだけで、ずいぶんと生産性上がると思います(笑) 資本力のある航空会社等と違い、自社だけで予約システム構築は困難です。クレジットカードを利用したくても、小規模旅館・民宿のカード手数料は莫大です。

こうした宿に関するフォローをどうすればよいか。例えば、DMOの事業として担っていただけないものでしょうか。営業代行業、人材紹介業等あらゆる方法があります。宿の経営者は日々現場にいるので、東京の研修会に集めたり、スマホ使ってないので(笑)eラーニングもなかなか難しく、OTAの営業の皆さんからの情報が全てになっています。

こうした宿にありがちな「後継者がいない」という悩みに関しても、総務省の「地域おこし協力隊」の起業希望者では最も多い希望業種が、なんと「旅館業・簡易宿所」という事実が解決の参考にならないでしょうか。全国3,000人以上いる協力隊のうち17%がそうですので、年間約500人の起業(事業承継も可能な)希望者がいるのです。総務省の起業研修会でも毎回多くの参加者が来られます。ただ、現状で自治体が紹介できるのが「空き家」・・・。という現状ではできてせいぜいスモールゲストハウスか民泊。最初の一歩としてはよいと思いますが、これでは副業にしかならず、何か本業をしなくては投資回収も難しいでしょう。しかし、地域を見渡せば、後継者がなく、行く末や相続を悩んでいる民宿経営者がたくさんいらっしゃると思います。ただ、そうした情報を得るのが容易ではなく、地域でもマッチングができきれていません。小さな宿でも法人化すれば、株式譲渡等の方法で事業承継することもできると思います。オーナーが居住し続けている場合でも、所有と運営を分離し、運営を受託するという方法もあると思います。そのために、オーナーと運営者をうまくマッチングする仕組みを開発していくことが政策としても期待されます。

宿の灯が消えれば、観光客は減ります。生産人口が減り続ける将来、労働生産性向上が必須であることには変わりありませんが、どうかジョハリの窓における既知の窓(中規模以上の旅館業の経営改善)ばかりではなく、「未知の窓」(数多くのパパママ民宿の経営相談)もいつか開けていただけることを切に望んでおります。

(井門隆夫)

» コラム一覧へ

最新のコラム

  1. 思い出で終わらない観光をつくる
  2. 国内旅行実施率と労働生産性の関係
  3. 旅館生産性向上における未知の窓
  4. 旅館業の労働生産性を高めるために
  5. 「てるみくらぶ」破産に思う
» コラム一覧へ

カテゴリー

  1. ツーリズムワイズラボ
  2. 井門隆夫のコラム
  3. 山田祐子の遊行コラム

    人気コラムランキング

    • 旅館業の労働生産性を高めるために
    • 「てるみくらぶ」破産に思う
    • 旅館生産性向上における未知の窓
    • 民泊問題の背景と真実
    • 国内旅行実施率と労働生産性の関係
山田祐子のコラムへ
山田祐子の
コラムはこちら
  • TOP
  • アクセス
  • お問い合わせ
  • プライバシーポリシー
  • 利用規約

ikaken

株式会社 井門観光研究所
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-21 ちよだプラットフォームスクウェア1606

Copyright © 2019
ikaken Inc
. All Rights Reservred.
PageTop